デルバト | プリント

くやしさ→前向きの物語 読解プリント(物語文・約1000字×2本)

リレーで抜かれた話とピアノの発表会でまちがえた話の2本で、負けや失敗のくやしさをかかえた主人公が、自分で何かに気づいて前を向くまでを描いた物語文です。どの場面の気づきが変わり目なのかを本文から探しましょう。

本文と課題をPDFで印刷

リレーで抜かれた

運動会のクラス対抗たいこうリレーで、ぼくは四番目の走者だった。ぼくはクラスでいちばん足が速いと言われていた。スタートの前から、心臓しんぞうの音が耳のおくでひびいていた。

バトンを受け取ったとき、ぼくたちのクラスは一位だった。前にはだれもいない。応援席おうえんせきから、ぼくの名前を呼ぶ声が聞こえる。ぼくは必死で腕うでをふった。

最後のカーブに入ったとき、後ろから足音が近づいてきた。ぼくは思わずふり返った。その一瞬いっしゅんで、三組の蓮れんがぼくの横に並び、そのまま前へ出た。追いかけたけれど、背中は少しずつはなれていった。

アンカーの拓海たくみにバトンをわたしたとき、ぼくたちは二位になっていた。拓海も最後まで追ったが、クラスはそのまま二位でゴールした。ゴールの向こうで、三組の子たちがとび上がってよろこんでいるのが見えた。

応援席にもどるとき、ぼくはだれの顔も見られなかった。くやしくて、手のひらにつめのあとがつくほど、こぶしをにぎりしめていた。ふり返らなければよかった。何度も、そればかり考えた。

運動会が終わった夕方、ぼくは一人で校庭のすみにすわっていた。テントはもう片づけられて、トラックの白線だけが残っている。ぼくは、蓮にぬかれた最後のカーブを、ずっと見ていた。あのとき、ふり返りさえしなければ。

「悠斗ゆうと、まだいたのか」

拓海が来て、ぼくのとなりにこしを下ろした。ジャージのひざに、まだ土がついている。

「二位だって、すごいじゃん。そんな顔するなよ」

「……ぼくがぬかれなかったら、一位だった」

拓海は少しだまってから、言った。

「蓮って、去年はそんなに速くなかったよな。毎朝、川ぞいの道を走ってるらしいよ。学校に来る前に」

ぼくは、はっとした。毎朝、登校のとき、川ぞいの道を一人で走っている子がいた。青いジャージを着ていた。雨の日も、かさをささずに走っていた。ぼくは友だちと笑いながら、それをながめていた。あれは、蓮だったのだ。

くやしさは消えなかった。けれど、そのおくで、何かがすっきりしていくのもわかった。蓮は毎朝走っていて、ぼくは笑って見ていただけだった。ぬかれた理由が、やっとわかったからだ。

「拓海。明日の朝、ぼくも川ぞいの道を走ってみる」

「じゃあ、ぼくも行く。アンカーだからな。来年は、二人で三組をぬかそうぜ」

校庭を、すずしい風がふきぬけていった。胸の中のもやもやが、風といっしょに運ばれていくようだった。ぼくは立ち上がって、大きく息をすった。明日は、いつもより一時間早く起きよう。

課題

  1. 気持ちの変化:はじめ(  )→ きっかけ(  )→ おわり(  )
  2. きっかけになった一文を書きぬこう。

ピアノの発表会でまちがえた

美咲みさきの番が来た。舞台ぶたいのそでで待っているあいだ、指先はずっと冷たかった。まぶしいライトの中を歩いて、美咲はピアノの前にすわった。前の子のきれいな演奏えんそうが、まだ耳に残っていた。

客席は暗くて、だれの顔も見えない。美咲はひざの上で両手を一度にぎってから、けんばんの上に指を置いた。客席の後ろのほうで、だれかが小さくせきをした。

弾ひき始めは、うまくいった。半年かけて、毎日練習してきた曲だ。指は、考えなくても動いた。先生にも、もうだいじょうぶ、と言われていた。

ところが、曲の真ん中に来たとき、右手の指がとなりのけんばんをおした。にごった音がひびいた。あわてて弾き直そうとして、指が止まった。会場が、しんとなった。頭の中が、真っ白になった。

一つ息をすって、美咲はもう一度弾き始めた。それからあとのことは、よく覚えていない。気がつくと最後の音が消えていて、ぱらぱらと拍手はくしゅが聞こえていた。おじぎをするとき、美咲は客席を見ることができなかった。

帰り道、美咲は妹のひなと二人で、夕方の道を歩いた。花束をかかえたまま、ずっと足もとを見ていた。くやしくて、口を開いたら泣いてしまいそうだった。あのにごった音が、何度も耳のおくでよみがえる。かかえた花束が、やけに重かった。

「おねえちゃん、なんでずっとだまってるの」

「……まちがえたから。あんなに練習したのに」

ひなは、少し首をかしげた。それから前を向いて、小さな声で歌い始めた。美咲は思わず足を止めた。

ひなが歌っているのは、美咲がまちがえた、すぐあとのところだった。指が止まって、もう一度弾き始めたところ。そこから最後までのメロディーを、ひなはまちがえずに歌っていた。

「ひな、その曲、覚えたの」

「うん。ここ、いちばん好き。おねえちゃん、家でいつも弾いてたもん。ひな、おふろでも歌ってるよ」

美咲は、花束をぎゅっとかかえ直した。まちがえた音は、まだ耳のおくで鳴っている。それなのに、ひなの歌を聞いていると、口もとがゆるんでしまう。くやしいのに、少しうれしかった。止まったあとに弾いた音も、ちゃんとひなにとどいていたのだ。

西の空の雲が切れて、ひなの横顔がふっと明るくなった。

「ひな、帰ったら、もう一回弾く。まちがえたところから。次は、止まらないで最後まで」

「じゃあ、ひなが聞いてあげる」

美咲はひなの手をにぎって、少しだけ早足になった。家までの道が、来たときよりも短く感じられた。

課題

  1. 気持ちの変化:はじめ(  )→ きっかけ(  )→ おわり(  )
  2. きっかけになった一文を書きぬこう。

関連するプリント

国語のプリント一覧 すべてのプリント

デルバトのプリントは無料で印刷・配布できます。本文はこのプリントのために書いたオリジナルの文章です。設問は順に追加します。