ぶっきらぼうな父や無口な祖母のそっけない態度にいらだっていた主人公が、ある発見から相手の本心を知る物語文2本です。何を見つけたことがきっかけなのかを、本文から書きぬきましょう。
土曜日の夜、ぼくは夕飯の席で、その日の試合の話をした。四年生でサッカーを始めてから、初めてゴールを決めたのだ。
「右からけったら、キーパーの手の先をぬけたんだよ。みんながかけよってきて、背中をばんばんたたかれた」
父ははしを動かしたまま、「そうか」と言った。
ゴールのあと、ぼくはすぐにフェンスの外を見た。ほかの子の家族は、立ち上がって手をふっていた。けれど、その中に父の顔はなかった。父は今日も、仕事だと言って朝早く出かけていったのだ。
「それだけなの。ぼく、初めて点を入れたんだよ」
「よかったな」
父はもうテレビのニュースを見ていた。ぼくは返事をしないで、ごはんを半分残して席を立った。部屋のドアを閉める音が、思ったより大きくひびいた。ベッドにもぐっても、父の「そうか」が耳に残って、なかなかねむれなかった。
夜おそく、のどがかわいて台所へ行った。父はもうねたらしく、家の中は静かだった。テーブルの上に、父の黒い手帳が置きっぱなしになっていた。
いつも仕事の予定を書いている手帳だ。見てはいけないと思ったけれど、開いたページのすみに、ぼくの名前が見えた。
「悠斗 初ゴール 右足 前半十二分 いい顔をしていた」
ぼくは手帳を手に取った。前のページにも、その前のページにも、試合のことが書いてあった。「負け 最後まで走っていた」「声がよく出ていた」。日付を見ると、どれも父が仕事だと言っていた土曜日だった。
そういえば、フェンスのいちばん遠く、大きな木のかげに、作業服の人が立っていた気がする。父は仕事のとちゅうで、あそこからぼくの試合を見ていたのだ。試合の始まる時間だけは、父がいつも母に聞いていたことを思い出した。
ぼくはしばらく、手帳の小さな字を見つめていた。うれしいのに、さっきドアを強く閉めたことを思い出すと、胸がちくりといたんだ。
「何してる」
ふり向くと、父がねむそうな顔で立っていた。ぼくはあわてて手帳をとじて、テーブルにもどした。
「お父さん、来週も試合だよ。……また点、取るから」
父は少しだまってから、「そうか」と言った。そして冷蔵庫から麦茶を出して、ぼくのコップにもついでくれた。さっきと同じ「そうか」なのに、今度はちがう言葉に聞こえた。
窓の外を見ると、雨はいつのまにかやんでいた。ぬれた道が、街灯の光を受けて、やわらかく光っていた。
課題
夕飯のとき、美咲は算数のテストをテーブルに広げた。赤い丸がならんで、上には大きく「百」と書いてある。クラスで百点は、美咲一人だけだった。美咲は、みんなに見えるように、わざとゆっくり紙をのばした。
「お母さん、見て。百点だよ」
母は「すごいじゃない」と手をたたいた。美咲は、向かいにすわる祖母の顔を見た。
祖母はテストをちらりと見て、「そう」とだけ言った。そして、また静かに煮物を口に運んだ。
美咲はテストを乱暴にたたんで、ランドセルにおしこんだ。祖母がこの家に来て一年になる。朝、「おはよう」と言っても、祖母はうなずくだけだ。祖母のほうから美咲に何かを聞いてきたことは、一度もなかった。
「おばあちゃんって、わたしのこと、どうでもいいんだね」
部屋にもどってから、美咲は小さな声で言った。だれも聞いていなかった。ろうかの向こうの祖母の部屋は、その夜もいつまでも静かだった。
次の朝、美咲は台所の祖母と目を合わせないまま、「行ってきます」も言わずに家を出た。角を曲がったところで、水筒を忘れたことに気がついた。
走って家にもどると、門の前から二階の窓が見えた。窓のところに、祖母が立っていた。祖母は窓わくに手をそえて、少しせのびをするように、さっき美咲が曲がった角のほうを見ていた。
美咲は門の前で足を止めた。祖母は美咲に気づくと、あわてたように窓からはなれた。
玄関を開けると、母が水筒を持って立っていた。
「はい、忘れ物。……おばあちゃんね、毎朝ああして、美咲が角を曲がるまで見てるのよ。雨の日も、寒い日もね。あの子は一度もふり返らないって、笑ってたわ」
美咲は水筒を受け取ったまま、しばらく動けなかった。昨日、テストを乱暴にたたんだ自分の手を思い出した。祖母にありがとうと言いたいのに、ゆうべの言葉が胸につかえて、顔が熱くなった。
美咲は階段の下まで行って、二階に向かって「行ってきます」と言った。声が少しふるえた。上からは何も聞こえなかったが、ろうかが小さくきしむ音がした。
角のところで、美咲は初めてふり返った。
窓の中で、祖母が小さく手を上げていた。美咲は水筒をにぎったまま、うでがいたくなるほど大きく手をふった。祖母の手が、少しだけ大きく動いた。
そのとき、雲のすき間から朝の光がさして、二階の窓ガラスがきらりと光った。
課題
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