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怒りの気持ちの物語 読解プリント(物語文・約1000字×5本)

いらだち・反発・不満・ねたみ・ふてくされるの5つの気持ちを、1本に1つずつ描いた物語文です。口をとがらせる、返事をしない、物を乱暴に置くといった行動から、怒りの中身のちがいを読み分けましょう。

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子どもみこし

「はい、もう一回。かけ声、ちゃんとそろえて」

湊みなとは、神社の前の広場で声をはり上げた。秋祭りの子どもみこしは、六年生が先頭に立って、小さい子たちをまとめることになっている。本番は三日後なのに、まだ一度も、うまくかつげていなかった。練習のたびに、湊のかけ声はどんどん大きくなっていった。

低学年の子たちは、すぐにみこしのぼうからはなれて、おにごっこを始めてしまう。中でも一年生の翼つばさは、みこしの下にもぐりこんだり、列のはしでとびはねたりしてばかりいた。

「翼、ふざけるなって言ってるだろ」

湊の声は、自分で思ったよりも大きかった。翼は一しゅん止まったが、すぐにまた列のはしで、ぴょんぴょんとはねはじめた。列がくずれるたびに、みこしを下ろさなければならない。今日だけで、もう十回目だった。

西日が、まともに顔に当たってくる。九月の終わりなのに、まだ真夏のように暑い。せみの声が、頭の上からわんわんとふってきた。湊はタオルで首のあせをぬぐい、足もとの小石をつま先で何度もけった。

「湊、そんなにどならなくても……」

同じ六年生の沙也さやが言いかけたが、湊は聞こえないふりをして、ぼうをかたにかつぎ直した。

「いくぞ。わっしょい」

みこしが動き出したとき、列の後ろで、ばたんと音がした。ふり返ると、翼が地面にたおれていた。ひざから、うっすらと血がにじんでいる。

湊はみこしをはなれて、かけよった。沙也が先に、翼のズボンについた砂をはらってやっていた。翼は泣くのをこらえて、くちびるをふるわせていた。

「なんで、ちゃんと前を見ないんだよ」

「……だって、湊くんみたいに、かっこよくかつぎたかったんだもん」

翼はしゃくり上げながら、両手をかたの上にのせてみせた。湊がぼうをかつぐときのかっこうと、そっくりだった。列のはしでとびはねていたのは、ぼうに手がとどかないからだったのだ。

湊の体から、ふっと力がぬけた。さっきまでの自分のどなり声が、耳のおくによみがえってくる。はずかしいのに、なぜか少しほっとしていた。

湊は翼のひざにばんそうこうをはってやると、みこしの前に、長いつなを一本結びつけた。

「翼は、ここを引っぱってくれ。いちばん前だぞ。先頭が止まったら、みこしは動けないんだからな」

翼は目をこすって、つなを両手でにぎった。湊がかけ声をかけると、ほかの低学年の子たちも、つなのまわりに集まってきた。夕方の風が、広場をすうっとふきぬけていった。

課題

  1. 気持ちの変化:はじめ(  )→ きっかけ(  )→ おわり(  )
  2. きっかけになった一文を書きぬこう。

公園の花だん

「こら、そこでボールをけるんじゃない」

公園でサッカーをしていると、またあの声が飛んできた。近所に住む田村たむらさんだ。毎朝、公園のそうじをしている白い頭のおじいさんで、ぼくたちを見ると、いつも何か注意してくる。

「ここは、みんなの公園でしょ」

ぼくが言い返すと、田村さんは何も言わずに、ほうきで植えこみのほうを指した。ぼくはわざとボールを強くけって、友だちの大地だいちにパスした。

次の日も、田村さんはベンチにすわって、ぼくたちをじっと見ていた。見はられているようで、ぼくは足がうまく動かなかった。だれのじゃまもしていないのに、どうして止められなければならないのか。言われれば言われるほど、ぼくの中で反発がふくらんでいった。

「いいよ、もっと強くけろうぜ」

大地に言って、ぼくは思い切りシュートした。ボールは大地の頭の上をこえて、植えこみの中に飛びこんでいった。がさっと音がして、何かが折れた。

植えこみのおくをのぞくと、小さな花だんがあった。黄色い花が、細いぼうに一本ずつ結びつけてある。そのうち一本が、根もとからぽきりと折れていた。花のそばには、板の札が立っていた。札には、ひらがなの大きな字で「さくらぐみのはな」と書いてあった。

田村さんが、ほうきを置いてゆっくりやってきた。ぼくは体をかたくして、どなられるのを待った。でも、田村さんは折れた花の前にしゃがみこんで、しばらくだまって見ていた。

「となりの保育園の子たちが、春に植えた花なんだ。毎朝、水やりに来るのを楽しみにしててな」

田村さんは折れたくきに細いぼうをそえて、ひもでそっと結んだ。ごつごつした指が、小さくふるえていた。

「……すみません」

ぼくの声は、かすれていた。田村さんがいつも植えこみのほうを指していたのは、ボールが花だんに入らないようにするためだったのだ。ぼくは、それをたずねようともしなかった。はずかしくて、申し訳なくて、顔を上げられなかった。

「明日、保育園の子たちに、ぼくからもあやまります」

田村さんは顔を上げて、少し目を細めた。それから、公園の反対がわの、フェンスのある広場をあごで指した。

「あっちなら、いくらけってもいい。ボールが道に出ないように、ネットも直しておいたから」

ぼくと大地はボールを拾って、広場のほうへ歩いた。ふり返ると、田村さんはまだ花だんの前にしゃがんで、黄色い花をそっとなでていた。

課題

  1. 気持ちの変化:はじめ(  )→ きっかけ(  )→ おわり(  )
  2. きっかけになった一文を書きぬこう。

いとこのとまり

「葉月はづき、今日から一週間、莉子りこちゃんと同じ部屋でねてね」

母にそう言われたのは、夏休みの最初の日だった。おばさんに赤ちゃんが生まれるので、二年生のいとこの莉子が、家にとまりに来ることになったのだ。

わたしの部屋には、わたしの物しかないはずだった。ところが次の日には、床に莉子のぬいぐるみが転がり、つくえの上にはクレヨンが散らばった。わたしが大事にしていたシールの手帳も、勝手に開かれていた。夜のテレビも、莉子の見たいアニメばかりになった。

「莉子ちゃん、それ、さわらないで」

「お姉ちゃんなんだから、少しくらい見せてあげなさい」

台所から、母の声が飛んできた。わたしは手帳を取り上げて、引き出しに放りこんだ。引き出しを閉める音が、思ったより大きくひびいた。

夕ごはんのときも、母は莉子にばかり話しかけた。わたしの好きなハンバーグは、莉子の分にだけチーズがのっている。どうして、わたしばっかりがまんしなければいけないのか。ずっとたまっていた不満が、のどもとまでせり上がってきた。

「もう、早く帰ればいいのに」

小さな声で言ったつもりだった。でも、莉子のはしが、ぴたりと止まった。莉子はうつむいて、残りのハンバーグを小さく小さく切りはじめた。母はわたしを横目で見ただけで、何も言わなかった。

その夜、ふとんに入っても、わたしはなかなかねむれなかった。となりのふとんで、莉子がもぞもぞと動いている。まどの外では、雨がしとしとと降り続いていた。

しばらくすると、すすり泣く声が聞こえてきた。

「……ママ、赤ちゃんが生まれたら、莉子のこと、わすれちゃうかな」

莉子は、まくらに顔をおしつけていた。わたしは息をのんだ。この一週間、莉子は一度も、さびしいとは言わなかった。わたしの物をさわっていたのも、わたしにかまってほしかったからかもしれない。

昼間の自分の言葉を思い出すと、顔がかっと熱くなった。

わたしは起き上がって、引き出しからシールの手帳を取り出した。それから電気スタンドをつけて、莉子のまくらもとにすわった。

「莉子ちゃん、好きなシール、一まいあげる。莉子ちゃんも、もうすぐお姉ちゃんになるんだもんね」

莉子はぬれた目をこすって、手帳をのぞきこんだ。そして、いちばんきらきらした星のシールを指さした。それは、わたしがいちばん大事にしていた一まいだった。わたしは少しだけ迷ってから、そのシールを、そっとはがした。

課題

  1. 気持ちの変化:はじめ(  )→ きっかけ(  )→ おわり(  )
  2. きっかけになった一文を書きぬこう。

子犬と弟

春休みに、家に子犬がやってきた。茶色い毛の、しっぽがくるりと巻いたしば犬だ。

「わたしがちゃんと世話をするから」と、父と母に何度もたのんだのは、わたしだった。毎朝早く起きて、散歩に連れていく。えさの量も、本で調べて計っている。散歩の時間が、毎朝楽しみだった。

それなのに、子犬は弟の樹いつきにばかりなつく。

学校から帰ると、子犬は樹のひざの上で、おなかを見せてねころがっていた。樹がボールを投げると、転がるように追いかけていく。わたしが手を出すと、くるりと背中を向けて、樹のところへもどってしまった。わたしはリビングの入り口に立ったまま、ランドセルのかたひもをぎゅっとにぎっていた。

「ほら、お姉ちゃんより、ぼくのほうが好きなんだって」

樹がとくいそうに笑った。散歩にも行かず、えさも入れたことがないくせに。わたしは返事をしないで、ランドセルをソファに放り投げた。

「樹、宿題は終わったの。遊んでばっかりいないで、さっさとやりなよ」

自分でもおどろくほど、冷たい声が出た。樹はきょとんとしてから、口をとがらせて部屋に行ってしまった。子犬は、樹のあとをとことことついていった。

その夜、わたしは子犬のえさ入れに、がちゃんと音を立ててえさを入れた。子犬はちらりとわたしを見て、少しはなれたところから食べはじめた。

次の朝は土曜日で、わたしはいつもより一時間もねぼうした。あわてて階段をかけ下りると、いちばん下の段に、子犬がちょこんとすわっていた。口に、散歩のリードをくわえている。

「ぼくが散歩に行こうって言っても、ぜんぜん動かないんだよ」

パジャマすがたの樹が、ねむそうな目をこすりながら言った。

「お姉ちゃんが学校から帰ってくる時間も、毎日げんかんで待ってるんだ。ぼくとは遊ぶけど、散歩はお姉ちゃんとじゃないといやなんだって。お母さんが言ってた」

子犬はリードをくわえたまま、しっぽをぱたぱたとふった。わたしはしゃがんで、そのリードを受け取った。子犬のしめった鼻先が、手のひらに当たって、くすぐったかった。

きのうの夜、樹に言ったことを思い出して、わたしは樹の顔を見られなかった。うれしいのに、どこか申し訳ない。

「……樹、いっしょに行こう。ボールも持っていこうよ」

樹は「やった」と言って、パジャマの上に上着をはおった。げんかんのドアを開けると、明るい朝の光が、二人と一ぴきの足もとをてらした。

課題

  1. 気持ちの変化:はじめ(  )→ きっかけ(  )→ おわり(  )
  2. きっかけになった一文を書きぬこう。

行けなかった夏祭り

夏祭りの日の夕方、悠斗ゆうとはげんかんでくつをはいていた。友だちと六時に神社の前で会う約束をしている。おこづかいも、もうポケットに入れてあった。

そこへ、お母さんの電話が鳴った。短く話して電話を切ると、お母さんはすまなそうな顔で悠斗を見た。

「病院からなの。急に人が足りなくなったんだって。悪いけど、湊みなとを見ていてくれる」

「なんで、ぼくなの。お父さんは」

「今日はおそくなるの。ごめんね。お祭りは、また来年……」

悠斗は返事をしなかった。口をとがらせたままくつをぬぎ、げんかんのすみにけとばした。お母さんが何か言いかけたが、悠斗はそっぽを向いた。友だちの家に電話をして、行けなくなったと伝えた。受話器を置く手に、つい力が入った。

お母さんが出かけると、悠斗はソファーにねころんでテレビをつけた。一週間も前から楽しみにしていたぶん、くやしくて、何もする気になれなかった。四さいの湊が、絵本をかかえてそばに来た。

「にいに、これ読んで」

「あとで」

悠斗はテレビから目をはなさずに、音を大きくした。湊はしばらく立っていたが、やがて絵本を持って自分の部屋へもどっていった。

窓の外では、日がしずみかけていた。神社のほうから、たいこの音がどん、どんと聞こえてくる。その音がわざと自分をよんでいるようで、悠斗はクッションを頭からかぶった。

しばらくして、湊がもどってきた。両手で、何か赤いものを大事そうに持っている。

「にいに、おまつり」

それは、赤い折り紙をつなげて作ったちょうちんだった。セロハンテープがあちこちからはみ出して、形もゆがんでいる。中にはかい中電灯が入っていて、ぼんやりと光っていた。

「にいに、行けなかったでしょ。だから湊が、おまつり作ったの」

悠斗はクッションをどけて、起き上がった。ちょうちんの光が、湊の小さな指を赤くそめていた。湊のほっぺたには、セロハンテープのきれはしがついていた。さっきけとばしたくつが、げんかんで横だおしになっているのが見えた。

「……ありがとな」

悠斗はテレビを消して、ベランダの戸を開けた。二人でならんでちょうちんを持つと、たいこの音がさっきより近くに聞こえた。遠くの空に、小さな花火が一つ開いた。

「にいに、きれいだね」

「うん。来年は、いっしょに行こうな」

まだ少しくやしいのに、悠斗はなぜか笑っていた。湊の手のちょうちんが、夜風にゆれた。

課題

  1. 気持ちの変化:はじめ(  )→ きっかけ(  )→ おわり(  )
  2. きっかけになった一文を書きぬこう。

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